「見せる」という行為

『企画書は1行』(野路秩嘉)の中で、旭山動物園のことを取り上げていた。


旭山動物園といえば、動物の行動展示で有名だ。
その行動展示をすることになったキッカケのような話が載っていた。


  動物園にまだ閑古鳥が鳴いている頃、
  飼育係の人たちが、それぞれが担当する動物舎の前で、
  客に動物の生態や行動について解説をするようにした。

  
  飼育係は、それまで動物の世話が専門で、客に話しかけることなんてしてこなかった。
  でも、お客さんに動物園からのメッセージを送ろう、というようにしたので、
  全員、話し上手な人も、話し下手な人もお客さんに話しかけなければならない。
  そんな中、話し下手な飼育係のアイデアが、後の行動展示につながるヒントを  


  その担当者は、しゃべるのが苦手で、客を前にすると緊張して、
  紙に書いたセリフさえ読むことができなかった。そこで考えたことは、
  象の生態を話すのではなく、オリの前に一日分のエサ100キロと
  一日分の糞とオシッコ100キロを置いた。
  象が生きるということは、これだけの量のエサを食べて排出することだと表現した。

  
  その後、その担当者は、象にスイカを与え、草やりんごなど
  そのまま鼻に巻ける小さい食物をもらったときとのしぐさの違いを、客に見せた。
  

  それを見た他の飼育係が、サルにスイカを与えた時のしぐさを客に見せた。


最初に見せたエサとオシッコの表現方法に、個人的に引かれる。
行動展示のキッカケは、小さなことだった。
自分の弱みをなんとか克服しようとしたちょっとしたアイデアだ。


エサと、糞、オシッコを見せてしまう。


話しを聞く側は、ほとんど話を聞いていない。話しに集中していないのだ。
でも、そこに見えるものを目の前に出されると、
ことばからはイメージしずらかったのが、一瞬で体感する。


今でこそ、旭山動物園の行動展示は有名だが、スタートはスイカの食べ方だった。


ここから、さまざまな動物の行動展示を思いつき、
行動展示しやすい動物舎を建設するための予算を経営母体である旭川市に要求するようになる。


  すぐには予算はおりないから、少ない予算で知恵を絞り、手間をかけながら工夫する。
  鉄材と網を買ってきて、小動物のオリを自分たちで作った。


  また、ウサギや羊を放し飼いにして、お客さんが動物と一緒に遊べるようにした。
  企画書と一緒に、動物と一緒に遊んでいる家族の写真を役所に持っていった。


予算の要求の仕方も説得力がある。


最初から多額の予算なんて、そう簡単にはおりない。
できることから始めて、そこで結果を出し、それを見せつけている。


ここでも、説明ではなく、客が喜んでいる写真が効いている。
どんな説明よりも、写真一枚で”お客が喜んでいます”というメッセージが伝わる。
役所としても、それを見せられたら、納得するだろう。  


もちろん、増加した入場者数のデータなども提出しているとはおもうし、
説明だって苦労して練り上げたことばだったとは思う。


だが、「説明」が何日かけてもできなかったことを
「見せる」という行為は一瞬にして成し遂げてしまう。