「だって、空いているじゃないですか」

『「R25」のつくりかた』(藤井大輔)を読んだ。

これは、リクルート社員である著者が、フリーペーパー「R25」創刊時の苦労話を綴った本だ。

最近私が読むビジネス本は、マーケティングに対して批判的な立場のものが多かった。世の中のニーズを追いかけても、自分を見失ってしまう。それよりも、まず自分自身のヴィジョンや、自分のできることを追求すべきだ、というような読後感想文を、このブログでも何回も書いてきた。


それに対して、この「R25」は、マーケティングが先行している。
著者や、その他のスタッフは、自分自身の内からこみ上げてくる欲情に突き動かさされて、創刊したわけではない。


「だって、空いているじゃないですか」


このフリーペーパーの創刊を思いついた2人の若者の発想だ。

当時M1(20代男性)は、活字離れがひどく、雑誌を読まないというのが業界の常識だった。何かの専門分野に絞ったターゲット雑誌ならともかく、M1層をマスとした雑誌とは無謀なことだと著者には感じた。それで、言いだしっぺの2人の後輩に問いただしたら、さっきのことばが返ってきたという。


「活字を読まないからこそ、大きな潜在可能性が広がっている。M1層に向けたマスメディアがないからこそ、作る価値がある。空いているところに行くからこそ、独占もできる」


実に冒険的な発想だ。
ここには、志に突き動かされる気概というより、世の中を達観したような冷静さを感じる。

この後に著者はプロジェクトを進めるにつれて、取締役に説教されたり、プレゼンやら社内の調整に神経使っている。
また、実務の作業では、M1層を対象にアンケートを繰り返し、ホンネを聞き出し、彼らも気づかなかったココロを拾い出している。
調査を重ねていくうちに、M1層に対する世間一般に流布している偏見との溝に気づく。何で溝が発生するのか。彼ら(M1層)は、その溝を埋めたいという欲求があるのに、それを表立っていっていないのではないか。その欲求に答える雑誌を編み出したなら、売れるのではないか。


他人の猿真似をするのではなく、独自の道を行ってみる。

それは、一種の職人魂が求められる。
作業をしていく上で、心に”アレッ”と引っかかったこと、おかしいと思ったことはそのままにしないで、納得いくまで原因を追究し、解決しなければならない。

そのとき、場合によっては世間の常識に疑ってみることが必要だ。
ついつい我々はものごとをキチンと見つめないで、偏見に身を任せてしまっているから。